ご挨拶


坂村 健

YRPユビキタス・ネットワーキング研究所 所長

YRPユビキタス・ネットワーキング研究所は過去にはユビキタス・コンピューティング、現在ではIoTと呼ばれている研究分野におけるパイオニアです。

当研究所は産学共同研究により当該分野の研究を推し進めるために、2002年に設立されました。本年度に創立20年を迎えます。ご存じのように横須賀リサーチパーク(注)はわが国における情報通信分野を先導する企業群の研究所が多く立地している場所です。YRPユビキタス・ネットワーキング研究所は中心となる横須賀リサーチパークが直営で運営する研究所として位置付けられています。

この研究所での研究グループは大きく分類すると三つあります。ひとつはユビキタス・コンピューティングの全体のアーキテクチャを統括するaggregate computingグループ。特にエッジノード、世界に誇るTRONアーキテクチャの研究開発を推し進めるためのエッジノード研究グループ。そしてそれらを利用した応用研究を推し進める応用研究グループです。

当研究所はこの分野に対しての世界的な研究協力を進めるための要ともなっており、2016年7月からEUとのスマートシティにおける共同研究の日本代表機関としても活躍しました。この研究所から出されている成果としてひとつには国際標準貢献があります。例えばTRONリアルタイムOS仕様がIEEEの2050-2018という国際標準のOSに採用されたり、ucodeがITU-T(国際電気通信連合、電気通信標準化部門)において国際標準規格の基礎として採用されたりしています。

またこういう基礎的なアーキテクチャとそれに付随する技術を使った色々な応用研究活動にも当研究所は貢献しています。基本的な研究成果の多くは学術的な論文にしたり、オープンアーキテクチャの思想からソースコードを一般に公開したりするなど、研究成果の普及にも努力しています。

最近の話題として応用研究活動の一環としてオープンデータの応用「NO! 三密プロジェクト」という取り組みも行っています。これは研究所の進めてきたエッジノードからのデータをクラウドで処理して社会に役立てるという一例になります(これについては当研究所のTOPICS記事『対談 堀潤氏x坂村健所長:「三密回避」のためのオープンデータ技術活用の今と未来』で紹介しています)。

また、エッジノードの研究に使用する組み込みOSについては本研究所も開発に寄与していますが、これまで日本の家電を始めとして多くの分野で広く使われてきたOSシリーズの開発と普及活動をしてきたことに対してIEEEよりIEEE Masaru Ibuka Consumter Technology Awardが授与されるという発表が6月末日にありました。

創立20周年を迎える本年もこれまで以上に研究を促進し、研究結果の公開を進めていく所存です。

2022年9月20日
坂村 健

注:2023年9月、(株)横須賀テレコムリサーチパークは社名を(株)横須賀リサーチパークに変更いたしました。