坂村健「IEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Award」受賞のご挨拶

※本記事は2022年7月5日に公開いたしましたが、受賞式の日付、場所が変更されたため、その部分を修正し7月28日に再度公開しました。

このたび、IEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers)よりIEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Award(参考訳:IEEE井深大コンシューマー・テクノロジー賞)の受賞の通知をいただきました。授賞式は2023年にアメリカ合衆国で開催予定です。

授賞理由は以下の通りです。
“For leadership in creating open and free operating systems for embedded computers used in consumer electronics.”
( 参考訳:「消費者向け電化製品に使われる組み込みコンピュータ用のオープンでフリーなOSの開発に果たしたリーダーシップに対して」 )

この賞はコンシューマーエレクトロニクスの分野での貢献に対して贈られる賞。トロンプロジェクトを通じてリアルタイムOSの仕様、実装を無料で公開してきた活動に対していただいたもので、私のみならずプロジェクトまたそのメンバーにとって大変に名誉あるものと感じております。

今後ともコンシューマー向けの製品に組み込むリアルタイムOSとその開発環境、さらにはそれらをサポートするネットワーク環境の提供、改良、普及活動を続けていく所存です。これまでの皆様のご協力に感謝すると同時に、これからの推進活動に対して引き続きのご支援、ご協力をお願いします。

トロンフォーラム会長
IEEE Life Fellow / IEEE Golden Core Member
INIAD (東洋大学 情報連携学部) 学部長
YRP ユビキタス・ネットワーキング研究所 所長
東京大学名誉教授
坂村健
2022年7月5日

IEEEについて

IEEE は、米国を中心とする世界最大の電子電気学会。同分野の国際標準制定組織でもあります。
IEEE は、人類社会に有益な技術革新の前進に貢献する世界最大の専門家組織です。
IEEEとIEEEメンバーは頻繁に引用される出版物、国際会議、標準規格(スタンダード)、および専門的・教育的活動を通じ、国際社会をインスパイアします。
IEEE は “アイ・トリプル・イー” と読み、Institute of Electrical and Electronics Engineers の略です。これが組織の正式名称であり、IEEEは米国公益法人法で公益法人に指定されています。

IEEE Awards and Recognitions

一世紀以上の間、IEEE は教育、産業、研究、サービスの分野における業績をたたえる様々なプログラムを支援しています。 これらの賞と表彰にはそれぞれユニークなミッションと基準が設けられており、また、人類、技術および専門職に永続的に影響を与える優れた同僚、研究熱心な教師、そして企業のリーダーを賞賛する機会となっています。

参考: 以上の説明は以下より引用させていただきました。
「IEEE について」 https://jp.ieee.org/about/summary.html

IEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Award について

IEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Award は IEEE 全体の受賞審査会で授与の判断がなされるIEEE-Level賞のカテゴリの一つにIEEE Technical Awards というものがあり、その中の一つです。

この賞はSONYの創業者の一人、井深大博士にちなんで命名されています。コンシューマー技術の分野での卓越した貢献に対して送られる賞です。1987年に創立され、1989年から授与が始まり多数の卓越した貢献をした方々に賞が贈られています。Sony がスポンサーとなっています。受賞者にはブロンズメダル、証書、賞金が与えられます。

受賞の判断基準:技術のイノベーション、創造性、品質、時宜を得ているか、社会への貢献、貢献による技術水準の向上、貢献をした人物のリーダーシップと職業上の業績、推薦の質などが考慮されます。

日本のコンピュータ産業関係者になじみの深い受賞者として近年ではAppleのスティーブ・ウォズニアックやLinuxのライナス・トーバルスなど以下のような方に賞が贈られています。

2021年 STEVE WOZNIAK, Public Speaker, Woz Speaks, Los Gatos, California, USA
“For pioneering the design of consumer- friendly personal computers.”
2020年 EBEN UPTON, CEO, Raspberry Pi, Cambridge, Cambridgeshire, United Kingdom
“For creating an inexpensive single-board computer and surrounding ecosystem for education and consumer applications”
2018年 LINUS BENEDICT TORVALDS, Fellow, Linux Foundation, San Francisco, California, USA
“For his leadership of the development and proliferation of Linux.“

参考:”IEEE Masaru Ibuka Consumer Technology Award“
https://corporate-awards.ieee.org/award/ieee-masaru-ibuka-consumer-technology-award/
これまでの受賞者のリスト
https://www.ieee.org/content/dam/ieee-org/ieee/web/org/about/awards/recipients/ibuka-rl.pdf

TRON プロジェクトとは

TRONプロジェクトは、1984年に発足した産学共同のコンピュータ・アーキテクチャの開発プロジェクトです。坂村健、東京大学名誉教授、INIAD(東洋大学情報連携学部) 学部長、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所長をプロジェクトリーダーとし、組込みシステム向けのリアルタイムOSとその開発環境整備からIoTネットワークまで、様々なコンピュータ分野の開発を進めています。
TRONプロジェクトの成果は、自動車のエンジン制御、デジタルカメラや携帯電話などの情報家電といった民生分野の製品から、工場内の機械制御といった産業分野まで、さまざまな分野の組込みシステムに世界中で幅広く利用されています。
TRON プロジェクトはオープンアーキテクチャを標榜しプロジェクトの活動をおこなってきました。また、国際標準化団体に積極的に技術仕様を標準案として提案し、基盤技術の国際標準化に貢献しています。

TRON プロジェクトの活動の推進連携のためにトロンフォーラムというNPOがあります。詳しくはそちらのウェブをご覧ください。
https://www.tron.org/ja/

オープンアーキテクチャ

TRONプロジェクトは開始当初からオープンアーキテクチャを前面に掲げてプロジェクトを推進してきました。オープンアーキテクチャを元に開発されたコンピュータがあらゆる機器に組み込まれ、私たちの生活をサポートするIoTネットワーキング環境を実現します。
TRONプロジェクトの成果物であるT-Kernel、μT-KernelなどのリアルタイムOSのソースコードは完全に公開されており、複製や改変、製品への利用も自由に行うことができます。

国際標準化

TRONプロジェクトでは仕様やソースコードをオープンにするだけでなく、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)やISO(国際標準化機構)などの国際標準化団体に積極的に標準仕様を提案し、基盤技術の国際標準化に貢献しています。
米国の標準化団体 IEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers)が2018年に定めた小規模組込みシステム向けリアルタイムOSの国際標準規格IEEE 2050-2018では、トロンフォーラムが開発したリアルタイムOS μT-Kernel 2.0の仕様がベースに採用され、最新のμT-Kernel 3.0はIEEE 2050-2018に完全に準拠した国際標準のリアルタイムOSとなっています。
また IoT 時代に様々なデバイスやデータの同定を行うための識別子システム ucode を提案し、それをもとにしたコード体系が ITU-T で標準化されています。(Y.4804/H.642.1。これに関連する標準、ITU-T ITU-T Y.4551/F.771、Y.4802/H.642.2の制定にも貢献しています。 )