IoTは私たちの環境を制御しています。制御される環境の一つの分野として私たちの生活環境があり、個別の住居の環境、個別のオフィスビルの環境などがあげられます。そして、これらの集合体として都市環境があります。

現在の都市環境は多方面で次のような課題を抱えています。

  • 人口の集中による資源不足などからくる問題。
  • 交通機関サービスの向上:交通渋滞の解消、自動車や自転車の共有。
  • 環境問題:対水質汚染、対大気汚染、地域全体での省エネの取り組み。
  • 防災:集中豪雨に対する治水対策、水害、地震、台風など災害発生時に市民を安全な場所に的確に避難させる誘導。
  • 安全な環境の提供: 対テロ対策を含む治安の向上、等。

こういった課題を解決する手段と手がかりをIoT、ビッグデータ解析、政府、そして民間のオープンデータも利用することで得ていこうというのがスマートシティのアプローチです。

YRP UNLはその主要な研究対象のIoTの成果を使い、ODPTの提供するデータも含む多様なオープンデータを使うなど、クラウドとオープンデータを利用したスマートシティへのアプローチを研究実践してきました。

既に、EUと日本の共同研究である CPaaS.io(2年6か月間の研究)の日本側の代表をつとめるなど、日本各地でのスマートシティ実験を展開してきています。

ケーススタディ1:CPaaS.io (City Platform as a Service, integrated open)

CPaaS.io(シーパース ドット アイオーと呼ぶ)は、EUと日本の都市が直面する課題をIoT 技術で解決するためのソフトウェアプラットフォームの開発プロジェクトで、2016年7月にEU-Japan 共同プロジェクトとしてスタートしました。

スポンサー/構成メンバー

EU 側は EC のHorizon2020研究プロジェクト、日本側はNICT(情報通信研究機構)プロジェクトとして本プロジェクトは位置づけられました。2016年7月から正式にスタートした30カ月にわたる本プロジェクトでは、YRPユビキタス・ネットワーキング研究所が日本側の代表を務め、EU側はBern University of Applied Sciences の E-Government-Institute が代表となりました。

日本(JAPAN) EU
代表:YRP ユビキタス・ネットワーキング研究所代 表:Bern University of Applied Sciences[ ス イ ス]
Microsoft Japan Co., Ltd. AGT Group (R&D) GmbH[ドイツ]
ACCESS CO., LTD. NEC Laboratories Europe GmbH[ドイツ]
(開始当初は NEC Europe Ltd.[イギリス])
ユーシーテクノロジ株式会社Odin Solutions S.L.[スペイン]
東京大学 越塚研究室
(開始当時は坂村 – 越塚研究室)
The Things Industries[オランダ]
University of Surrey[イギリス]

基本方針

IoTアプリケーションアーキテクチャの実装手法としてEU側はFIWARE を、日本側はIoT-Aggregator(u2アーキテクチャ)をベースとする方針でプロジェクトは開始しました。FIWAREはEU で広く使われ始めている基盤技術であり、日本のIoT-Aggregatorと並んでCPaaS.ioのアプリケーションフレームワークの重要な柱の一本となります。日本プロジェクトはクラウドサーバとセンサ等組込み機器とを連携させたスマートシティイノベーション向けのCPaaS.ioアーキテクチャを構築しました。


CPaaS.ioアーキテクチャ

ケーススタディ2:プロトタイプ実験

都市問題がICT技術へ要求する要求仕様を拾い上げ、アーキテクチャの有効性を実証するための数多くのプロトタイプ実験を各地で行ってきました。

日本では、札幌にて観光への応用、横須賀にて救急医療の応用、東京にて公共交通分野での応用実証を行いました。東京公共交通オープンデータチャレンジコンテスト公共交通オープンデータ協議会(ODPT)開催)を支える技術にもCPaaS.ioデザイン哲学と応用の枠組み(データ構造、ボキャブラリなど)が反映されています。EU側ではアムステルダムにて集中豪雨時の雨水制御を試みる実証と、Color Runというイベントの管理を試みる実証、またスペインのムルシアでの駐車場管理実証実験が行われました。

最終年となった2018年には、EU側のシステムと日本側のシステムを繋げての実験も行いました。そこでは最近注目されているプライベートデータの管理(EU側のGDPRへの対応) などの法律実務上の問題が正面に現れて、法律実務の側面が重要なことを改めて強く印象づけた形となりました。パーソナルデータを適切に管理するOPaaS.ioのダッシュボードの有効性がそこで明らかになりました。

ケーススタディ3:City Stakeholders Meetings

都市行政担当者の要求を知るためとプロジェクト成果の普及のため、City Stakeholders Meetingを日本で2回(2017 TRON Symposiumおよび2018 TRON Symposium)とEU側で1回ずつ開催しました。2018年のTRONシンポジウムでは東京、札幌、チューリッヒ、アムステルダム、ムルシア、横須賀の都市からの参加者が発表、意見交換を行った。東京は2020年のオリンピック・パラリンピックを抱えていることから、東京に特化したセッションを独立に開催しました。


2017 TRON Symposium
2018 TRON Symposium

都市行政府、地元の商工団体からのサポートはCPaaS.ioプロジェクトの成果を普及させるためには不可欠です。トロンフォーラムのメンバーはこれまでもODPT等と札幌オープンデータ協議会をリードするなどの地道な活動を行っており、それがプロジェクト遂行にあたり有利に働きました。

プロジェクト終了と今後

30カ月のプロジェクトは2018年の12月末に終了を迎えました。
UNLは開発された諸技術や所見を今後のスマートシティプロジェクトに反映していきたいと考えています。興味のある都市関係者の方々は是非コンタクトください。